事業承継

事業承継とは,事業を継続・発展させる目的で後継者へ引き継ぐことを指します。

中小企業庁によると,中小企業・小規模事業者の経営者のうち,約4割が65歳以上であるとされており,今後数年で多くの中小企業が事業承継を検討しなければならないと考えられます。その一方で,現経営者からすると,「まだまだ先の問題だ」と考えてしまったり,自身の影響力を維持したい等の理由から,事業承継は先送りにしがちな問題でもあります。

 

ですが,取引先とのつながり,経営に関する様々なノウハウ,従業員などの経営資源を守りながら,企業が世代を超えて,継続・発展していくため,事業承継は,いつかは考えなければならない問題であることは確かです。

また,後継者の育成機関を含めると,事業承継には5~10年もの期間を要するとされており,事業承継を先送りすることで,後継者が育っていなかったり,タイミングを逃してしまうことで,企業の価値が低下して良い条件で引き継げなくなったり,後継者が見つからなくなることも考えられます。

さらに,先延ばしにしているうちに経営者の発言権・決定権が弱まってしまっていると,いざ,事業承継をしようとしたときには,内紛によって,会社の分裂などに発展してしまうことさえあり得ます。

このため,経営者が,現役で発言権や決定権を維持している段階で,5~10年後を見据えた事業承継の準備を進めていくことが大切です。

 

中小企業においては,現在でも多くの場合は,親族,特に子供を,後継者の候補と考える方が多いでしょう。その場合,子供の側に経営者としての資質があり,子供自身にもやる気がある場合には,周囲の理解も得やすいため,後継者として育てていくことになるでしょう。

他方で,子供に経営者としての資質や自覚がなく,その意思もないような場合には,他の親族を後継者とすることもあり得ます。

また,兄弟の内の1人を後継者にする場合には,後継者とならない子供には,事業用資産以外の財産を承継させるなどしてバランスを取るようにしないと,後になって相続争い等の紛争に発展してしまうこともあり得ますので,だれに,どのように財産を承継させるのかは重要な問題です。

 

他方で,近年は,親族外承継が増加傾向となっています。経営者が,子供には自由に職業を選ばせたいと考える傾向があることや,無理をして子供に引き継がせて,リスクを負わせたくないと考えることを背景に,親族内での後継者の確保が困難になってきているからです。このため,経営者と親族関係にない役員や従業員を後継者にする親族外承継や,社外の第三者に会社や事業を譲渡するM&Aの割合も増えてきています。

 

以上のとおり,事業承継では,大きく,親族・社内に後継者がいる場合といない場合によって,検討すべき内容が異なってきます。

 

親族内・従業員承継

親族内承継

親族内承継の場合には,相続により経営権(株式や事業用資産)が分散するリスクを孕んでいますので,現経営者が現役で,発言力もある時期に行うことが理想的です。後継者を社長に,経営者は会長に就任して,段階的に権限を委譲するという方法もとられています。

スムーズな親族内承継のための,主な対処方法としては,株式の生前贈与や,遺言書の作成となります。

生前贈与であれば税金対策もいろいろ考えられます。また,生前贈与には,経営承継円滑化法に基づく遺留分に関する民法の特例も定められていますので,利用を検討してみましょう。

また,遺言書により,経営権の分散を防ぐためには,後継者には自社株式や事業用資産を,他の相続人には事業に関係のない資産や現金を相続させることで,バランスを取り,他の相続人の遺留分を侵害しないよう配慮することで,スムーズな事業承継が行えます。

仮に,現経営者が遺言書を作成しないままになくなると,遺産の配分は遺産分割協議により決定されることになるので,他の相続人の反対などにより,必ずしも現経営者の意に沿わない分割方法となってしまい,結果として自社株や事業用資産が分散してしまったり,場合によっては相続争いに発展し,自社株や事業用財産の取得者がいつまでも決まらず,宙ぶらりんの状況になってしまうことも考えられます。

逆に,相続財産の大部分を自社株が占める場合など,後継者に株式を集中させることで,どうしても遺留分の侵害となってしまう場合には,種類株式の発行等会社法を活用した手法も考えられます。

親族内承継といっても,その取り巻く状況は様々であるため,税金面や,民法の特例や会社法の利用等も含め,自社の場合どのような手段でおこなうことがベストなのかを検討しなければなりません。その際は,弁護士や税理士といった専門家の意見を踏まえることも大切かと思われますが,当事務所では,税理士とも連携しておりますので,是非ご相談いただければと思います。

親族以外への承継

親族以外で,長年会社を支えてくれている役員・従業員などに承継する方法が考えられます。

相続や贈与などを介して株式等を無償譲渡する親族内承継と異なり,役員・従業員への承継の場合は,自社株式などを有償で譲渡するケースも多くなります。このため,後継者の資金調達が課題となります。

後継者が自前で資金を用意できない場合の資金調達方法については,金融機関からの借入,後継者候補の役員報酬の引き上げ等が一般的です。このほか,経営承継円滑化法に基づく金融支援についても活用を検討するのが良いでしょう。

他方で,親族外であっても自社株を無償譲渡することも考えられます。その場合においては,経営者の子や親族の理解・協力が最も重要となります。経営者の子や親族等の推定相続人との間を調整するために,無議決権株式等の種類株式を発行し,親族らに配分する方法もあり得ます。

また,無償譲渡では,贈与税が発生してしまいますので,一定の要件の下,贈与税の納税が猶予免除される,事業承継税制の活用も検討したいところです。

 

親族内承継・親族外承継にかかわらず,事業承継時には,債務や保証,担保等の引き継ぎについても検討しなければなりません。

経営者は,会社に対して貸付を行っている場合が多く,当該債務については,自社が債務超過であり,実質的に回収は不可能だとしても,相続が発生した場合,相続財産として課税の対象となってしまいます。このため,事業承継に当たっては,会社との間の債権・債務関係にも十分に配慮しながら進めていくことが必要となります。

また,会社は多くの場合金融機関からの借入をしていますが,その場合,経営者が個人保証をしていることが一般的であるため,現経営者は経営から退くにあたって,個人保証を解除してもらいたいと考えるでしょう。しかし,これについては,金融機関は消極的であることも少なくなく,適切な調整が必要となります。

この点,保証解除が困難という問題が,スムーズな事業承継を阻害する要因の1つということもあり,日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会が設置した「経営者保証に関するガイドライン研究会」によって,「経営者保証に関するガイドライン」が策定されました。

当該ガイドラインに沿って,事業者が財務基盤の強化などの取り組みを進めることで,経営者の個人保証が解除されることも増えてきています。

弁護士がサポートすることで,金融機関との交渉が円滑に進む可能性が高くなると思われますので,個人保証解除などにつきましても,ご相談いただければと思います。

社外への承継(M&A)

親族や社内に後継者候補がいない場合には,外部から探す必要があります。

M&Aで用いられる手法としては,株式を第三者に譲渡する方法,事業全体を譲渡する方法,特定の事業を譲渡する方法があります。

M&Aでは,どのような手法・内容で事業を譲渡したいのかを,まず経営者自身が明確にする必要があります。

それを前提に,仲介業者等を介すか,紹介などにより譲渡先を選定し,具体的な契約に入っていくこととなります。

M&Aには専門的なノウハウが必要とされていますので,金融機関やM&Aの仲介を行う民間の会社,専門家等のサポートを受けながら進めていくのが一般的でしょう。

なお,M&Aによる承継の場合は,親族内・従業員承継の場合にもまして,承継前に企業価値を高めておく必要があります。そのことで,より有利な条件で譲渡することが出来るからです。企業価値の向上のためには,事業の競争力向上のほか内部統制の構築などが鍵になります。

事業承継を準備していく際,並行して,自社に応じた適切な就業規則の制定,日常業務に関するトラブル防止のための契約書のブラッシュアップ,しっかりとした労務管理やコンプライアンス教育等を行うことによって,企業価値は高まると考えられますが,顧問弁護士契約によって,これらを包括的にサポートできると考えられますので,顧問弁護士についてのページ(※事務所サイトリンク??)もご参照いただければと思います。

 

なお,国によるM&A支援機関として,各県に,「事業承継・引継支援センター」が設置されています。その他,日本政策金融公庫の事業承継マッチング支援,その他民間企業でも支援が行われていますので,比較検討のうえ,利用を検討してみると良いでしょう。

 

事業承継を弁護士に相談・依頼するメリット

これまで述べたとおり,事業承継の方法は様々であるうえ,その過程では,契約書等各書類の作成等,専門的かつ煩雑な対応が求められますので,このような手続きについては,専門家である弁護士に行ってもらうことで,経営者は引き継ぐべき会社の日常業務への支障を少しでも避けるとともに,そのノウハウを後継者に引き継ぐなど,経営者にしか出来ない引き継ぎ業務に専念することが出来ます。

また,弁護士の関与(特に顧問契約)により,承継後の会社運営に関するサポートも引き続き行う事が出来,承継~承継後の会社運営がスムーズに軌道に乗る可能性が高くなります。

これに加え,中小企業の事業承継においては,相続問題が絡むことは多々あります。

相続問題の解決には法的専門知識が必要であることはもちろんのこと,感情的な対立も大きくなりがちで困難な問題ですので,相続問題等の家事事件にも精通した弁護士のサポートを受けることで,少しでもスムーズに,なおかつ精神的な負担も減らすことが出来るでしょう。

事業承継をご検討中の企業様におかれましては,当事務所にご相談いただければと思います。

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