建設業界は慢性的な人手不足であり、それによる長時間労働が問題になりやすい業界です。また、現場には、多くの下請業者・協力業者が関わるため、従業員と下請けの区別があいまいとなり、そのことが原因で発生するトラブルもあります。
もちろん、売掛金の回収等他業界と同様の法律問題も考えられますので、以下、これらについて解説していきます。
長時間労働の実情
建設業界の年間実労働時間は、全産業平均が1709時間であるのと比較して、323時間も長い2032時間もあるとされており、このことは、建設業界の労働者が、全業種平均と比べ、月換算で27時間も多く働いていることを示しています。また、8割の業者において、週休2日も達成されていないといわれています。
このような長時間労働のイメージもあってか、建設業界への就業者数も年々減り続け、55歳以上の労働者の占める割合が、35%を超えています。
少子化の影響もあり、人材不足は今後も加速するものと思われ、状況はより厳しくなると考えられますが、建設業は社会のインフラを支える重要な産業であるため、持続可能な企業を目指す必要があります。
長時間労働の弊害
長時間労働によって生産性が低下するのみならず、従業員の心身の不調やそれに至らなくても離職率の上昇等により、悪循環に陥ってしまうこともあります。
心身の不調・過労死等が発生し、それが業務上発生したと認められる場合は、労災にあたる可能性が高く、企業の方も法的責任を負うことになります。
それだけではなく、心身の不調で退職した従業員などから、多額の未払残業代の請求を受けることも考えられます。
最近では、インターネット広告等の影響もあり、退職した社員が弁護士に依頼して、未払残業代を請求する事案が急増してきています。
長期間にわたり、従業員の勤怠管理が適切に行われていなかったということになれば、一人の従業員からの請求であっても、その額は数百万から1000万円以上に上ることも珍しくありません。このような請求は、中小企業にとっては、経営をも脅かすような事態であるといっても過言ではありません。
このため、自社従業員の勤怠管理を適切に行う必要があるということはいうまでもありません。
これに対しては、時間外労働を減らしたり、適切な残業代を支払おうと思っても限界があるし、徹底していたのでは、かえって経営が成り立たなくなるというお声も頂くところです。
固定残業代制度の導入
この点については、固定残業代制度の導入を検討してみることも有効でしょう。
すなわち、あらかじめ定められた一定の金額により時間外労働、休日及び深夜労働に対する各割増賃金を支払うという残業代支払制度で、慢性的な時間外労働が発生する業種においては、次のようなメリットがあります。
すなわち、従業員としては、想定されている残業時間数よりも早く業務を終えることで、実際に働いた時間数より多くの給与をもらえるというメリットがあり、これによって、業務効率を上げて仕事をすることが想定されるため、残業時間の削減につながるというメリットがあります。また、毎月の支払賃金が安定する等のメリットがあります。
もっとも、制度を導入しても、想定した時間を超えた場合には超過分については別途で残業代を支払う必要があるなど、労働基準法等の法令に違反することは出来ません。また、雇用契約書・就業規則には、固定残業制の導入やその内容を明示しておく必要があるなど、導入には、厳格な条件があります。
このため、会社における従業員の労働時間等の現状をしっかり把握した上で、導入の適否判断し、導入するとして固定残業代を何時間分にするのか等、慎重に検討を行ったうえで、適切な手続き(就業規則の改正等)を経る必要があるでしょう。
固定残業制を導入しているにもかかわらず、関連するルールがない状態では、残業代が正確に支払われていると認められない恐れがあり、労働基準法違反となる可能性もあります。
このため、固定残業代の導入をご検討の場合、専門家である弁護士にご相談いただければと思います。
2024年度から適用される残業時間の上限規制
2019年4月1日(中小企業は2000年4月1日)、働き方改革関連法による改正後の労働基準法により、時間外労働の上限規制が法定化されました。建設業においては、適用が猶予されていたものの、2024年4月1日から適用されることになります(災害時における復旧・復興の事業については一部の規制を除く)ので、建設業においてはこの点にも注意が必要です。
具体的には、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることが出来ません。
臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、以下を守らなければなりません。
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
・時間外労働と休日労働の合計について、2~6か月平均80時間以内
・時間外労働が月45時間を超えることが出来るのは年6回が限度
臨時的な特別の事情にかかわらず、1年を通して常に、時間外労働と休日労働の合計や、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内にしなければなりません。
自社の従業員と下請けの区別
建設業の現場では、多くの人が関与し、それぞれの役割を果たしながら仕事をしていますが、これらの働いている人が自社の従業員であるか、一人親方等の下請けさんであるかについて、企業側からみたら明白であると思われるかも知れません。
企業の方からしてみれば、自社の従業員とは雇用契約を結んでいますが、下請けさんたちは個人事業主であって、請負契約を結んでいるに過ぎないというものです。
ですが、いざ争いとなった場合、契約の種類だけで判断されるものではなく、請負契約という名称で契約を締結している場合であっても、企業の方に雇用者の責任を問われることがありますので、注意が必要です。
それでは、雇用契約と請負契約はどのような要素により区別されるのでしょうか?
これについては、一般的に以下の5つの要素で判断されるとされています。
・仕事の諾否の自由
与えられた仕事について、下請側が拒否する余地がなければ雇用契約に傾きます。
・業務遂行上の指揮監督
業務の内容や遂行について、下請けが元請けから指揮命令を受けていれば、雇用契約に傾きます。
・時間的・場所的拘束性
下請けであっても、勤務時間や勤務場所が規律されている様であれば、雇用契約に傾きます。
・専属性
下請けさんに、他社の仕事をする自由がなければ雇用契約に傾きます。
・報酬の算定、支払方法
報酬が出来高払いではなく、時間によって計算されていれば雇用契約に傾きます。
・事業者制の有無
仕事に必要な道具や設備、諸経費(ガソリン代等)について、元請け側が負担していれば、雇用に傾きます。
・その他
源泉徴収等
これらのことに注意するとともに、建設工事請負契約書を取り交わしておくことも大切です。先ほどは、契約の名称ではなく実態で判断すると記載しましたが、契約書をきっちりと交わしておくことで、双方にとって、契約内容が明確になり、疑義の発生を防ぐことができ、トラブルの回避につながります。
また、いざ、トラブルが起こった際にも、契約書は、解決にむけて非常に大きな役割を果たします。
このため、下請けさんとの間でも、請負契約書を取り交わすようにしましょう。
当事務所の建設業向けのサポート
当事務所では、建設業を営む企業様に以下の様なサポートを行っています。
・就業規則・契約書等各書類のリーガルチェック
インターネットで見つけた契約書のサンプルを使っているが、自社においてこれが適切なのかが分からない、就業規則が現在の実態に合っていないか不安である、また、就業規則自体がないといったご相談を受けることがあります。
ですが、後述のような労務トラブルに対応するためには、就業規則や賃金規定をきちんと整備することが不可欠です。また、建築請負契約書等の各書類についても、適切に取り交わしておかないと、後になって「言った、言わない。」のトラブルになる場合もありますし、契約書の内容が自社に不利益となっている場合もあり得ます。
当事務所においては、建設業者様の社内規定をチェックして、リスクの有無や見直すべき事項について助言し、また、修正案を提示したり、契約書の内容チェックや新規作成も行っておりますので、自社の書類の内容にご不安がおありの企業様はご相談ください。
書類のリーガルチェックについて、詳細は、契約書のページをご覧いただければと思います。
・労務トラブルへの対応
弊所では、辞めた授業員から未払残業があるとして請求を受けている、問題従業員がおり、辞めてもらいたいがどう進めて良いか分からず困っている等の、労務トラブルへの対応を行っております。
労務トラブルの場合、問題が起こった場合への対応はもちろんのこと、問題が起こらないようにすることが大切ですので、労務管理においてご不安がおありの場合は少しでもお早めにご連絡ください。
労務問題についての詳細は、労務問題のページをご覧いただければと思います。
・売掛金回収
工事が完了したにも関わらず元請会社が代金を支払ってくれない、お金を貸したにもかかわらず、支払期限を過ぎても返してもらえなくて困っている等、事業を行っているとどうしても債権回収のお悩みが出てきます。
債権回収には様々な手段があり、弁護士にご相談いただけることでスムーズな回収が図れることがありますので、ご相談いただければと思います。
売掛金回収については、債権回収のページもご覧いただければと思います。
上記以外にも、弊所では、建設業を営む企業様へ各種法的のサポートを行っておりますが、顧問契約をいただいている企業様におかれましては、プランによって違いはありますが、顧問料の範囲内で対応出来ることも多々ありますので、弊所の顧問契約料金表もご確認いただければと思います。