製造業は、日本の主要産業の1つであり、私たちが日常生活を送るためになくてはならない重要な産業です。
ですが、深刻な人手不足のために、外部業者への委託や派遣というように、対従業員においても、多様な契約形態が発生するため、労務管理における法律問題が発生しやすい産業といえます。また、一定程度危険を伴う業務が想定される以上、労働安全衛生法令への対応が求められます。
さらに、大量に生産した商品に関し製造物責任法への対応が求められます。
このように、製造業においては法的リスクが発生しやすい傾向がありますので、以下、対応方法とともに解説します。
労務問題
製造業界は、体力的にしんどいイメージがあることに加え、離職率も高いことから、慢性的な人手不足という問題を抱えています。
離職率が高いからといって、雇用条件を整備しないまま安易に採用すると、また離職者が出てしまうという悪循環に陥るだけでなく、離職した従業員から、未払残業代として多額の金員を請求される等のリスクもありますので、労働条件を整備し、労働時間の管理をしっかり行う等の対応が求められます。
製造業には、繁忙期と閑散期がありますが、繁忙期においては、製造個数を増やすためにどうしても製造ラインをフル稼働させざるを得ません。そうすると、長時間労働、残業代の問題が発生してしまいます。
とはいえ、長時間労働の問題を放置していれば、いずれ労災等のより重大な問題に発展してしまうことにもなりかねません。
このような問題を少しでも緩和するため、外国人の雇用も避けては通れない問題ということになります。外国人雇用に当たっては、在留資格等特有の問題もあります。
このような外国人雇用も含めた人材確保を行うとともに、従業員が少しでも働きやすくなるよう、適切な時間管理を行う必要があります。このような時間管理については、十分に行っていると思っていても、法的に見れば意外な落とし穴があることも少なくありません。このため、外国人の雇用や、労務管理全般を含め、弁護士等の専門家からのアドバイスを受けることが大切です。
労働災害
労働安全衛生法は、労働災害を防止し、労働者の安全と健康を守るために、労働災害の防止のための危害防止基準を確立し、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的としています(労働安全衛生法1条)。
そして、労働安全衛生法に違反すると、罰則が定められており、しかもその多くの規程は両罰規定といって、違反した行為者はもちろんのこと、その事業主体である法人や事業者も罰せられることとなります。
下記で述べる労災隠しは、罰則の対象となる典型的な事案ですが、そのほかにも高所作業における危険防止のための規定(同法21条2項、同規則519条2項)食品加工用粉砕機等に関する危険防止のための規定(同法20条1号、同規則130条の5第2項)等、業種に応じた各種安全確保のための規定が定められていますので、同法に適合するよう、安全確保を行うことが必要です。
製造業は、危険物等を取扱ったり、製造ラインで実際に機械等を扱う業務を行うため、人身事故が発生しやすい環境にあります。一度労災問題が起こると、企業にも多額の賠償金支払義務が発生するだけでなく、企業イメージの低下等、これによる取引の打ち切りや顧客離れによる売り上げの低下等、副次的な影響も計り知れません。
このため、労災が発生することのないよう、しっかりとした安全衛生教育を行うことはもちろん、長時間労働による人身事故の発生や、長時間労働によるメンタルヘルス問題を防止する必要があります。
それでも労災事故が発生してしまった様な場合には、適切な対応が求められます。
たとえば、次のとおりです。
労働災害が発生した場合には、まず、被災者の救護を最優先に行います。労災で、従業員とのトラブルが悪化する原因の1つに、使用者が発災当初救急車を呼んでくれなかったといったことがあります。これにより、従業員側が、使用者側に対する不信を募らせて、トラブル解決がより遠のくケースも見受けられます。人身の保護を最優先に行うのは当然のことではありますが、突然のことに動揺してしまうこともありますので、適切な対応が出来るよう、日頃から教育を行っておくようにしましょう。
その後、事業主は、労働基準監督署に遅滞なく労働者死傷病報告書を提出しなければなりません。提出しなかったり、虚偽の報告をした場合には、上記の労働安全衛生法違反として、罰則の対象になる可能性もあるので、注意が必要です。
労災が発生したということは、何らかの形で安全管理が不十分であった可能性がありますので、労災の経緯や原因を究明して、適切な対策を講じ、再発防止に努めることが必要です。
被害を受けた従業員が、安心して怪我の治療を受けられるよう、会社の側が主導して労災申請を行うことが大切です。
会社の側が労災の手続きを嫌がっているということを原因として、従業員の側が、会社に対してより不信感を募らせているといったケースも多く見受けられるところです。
とはいえ、中小企業では、労災が発生した場合の手続きを理解していなかったり、通常の業務が忙しく、労災申請の手続きまで手が回らないとうのも実情です。
このため、労災が発生してしまった場合には、弁護士のサポートを受けることが大切です。
労災が発生した場合には、まずどのような手続きをすれば良いのか、適切なアドバイスを受けることも出来ますし、また、従業員からの損害賠償請求にも適切に対応することが出来ます。損害賠償請求をされたからといって、請求されたままを支払わなければならないわけではなく、損害額の計算方法によって、減額を主張したり、会社側の責任に応じた過失相殺も主張するなどして、賠償額を適正額に減額するよう交渉していくことが出来ます。
この点、顧問弁護士であれば、会社の通常業務を理解しているため、よりスムーズに、また、早い段階での相談が可能となり、問題の悪化を防止することが出来ます。
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製造物責任法(PL法)への対応
製造物責任法(PL法)とは、製造物の欠陥が原因で、他人の生命・身体・財産に障害が発生した場合、製造業者等に損害賠償責任を負わせる法律です。
一般の不法行為の場合には、他人の行為により損害を受け損害賠償を請求する場合、請求する側(被害者)が、損害を与えた側(加害者)に「故意または過失」があることを立証しなければなりません(民法709条)。
これに対し、PL法では、製造業者の故意や過失の有無を問わず、製品に欠陥があれば製造業者の損害賠償義務を認めることとされています。
大量生産・大量消費により、様々な製品を入手できるようにあり、生活の利便性が向上する一方で、欠陥製品の事故による被害者の数も急増して行ったという社会的背景を受け、被害者が、製造業者の故意や過失を具体的に立証することは簡単ではなく、酷であるという考え方が強く支持されるようになり、PL法の制定に至りました。
上記のように、製造物責任は無過失となっているのですから、製品を製造する企業である限り、製造物責任は、製造業者にとって避けては通れない問題ということになります。どんなに注意していても欠陥製品を流通させてしまう可能性はあるからです。
このため、企業側としては、一定の欠陥製品が発生することを前提に、社内の危機管理体制を整備し、実際に消費者との紛争が生じた場合には、迅速かつ適切に対応出来るようにしておくことが大切です。
それとともに、PL保険への加入を検討するようにしましょう。
PL法には危険などの表示を義務づける規定はありませんが、何らかの危険が潜んでいる場合に何も表示がない場合に、そのこと自体が欠陥と認定される恐れがあります。従って、注意の表示が必要か否かについて、検討することも重要となります。
以上のとおり、PL法対応には法的にも様々な問題があります。
紛争が発生した場合の対応はもちろんのこと、紛争が顕在化する前に、危機管理体制を構築していくことが重要となります。
PL法対策にご不安がおありの企業様は、しっかりとした体制を構築されたい企業様につきましては、是非ご相談いただければと思います。