会社を運営するうえで、従業員と揉めやすい要素の一つが残業代です。未払い問題や計算が合わないなど、さまざまな場面でトラブルを引き起こす恐れがあります。
この記事で解説しているのは、残業代を請求されたときの対処法についてです。記事を読めば、対応を放置した際のリスクや労働基準監督署による是正勧告の流れも把握できます。
今のうちからリスクヘッジをしたい事業主は、記事の内容を参考にしてください。
未払い残業代請求対応を放置するリスク
未払い残業代を請求された際、その対応を放置しているとさまざまなリスクが生じます。ここでは特に起こりうるトラブルについて解説しましょう。
労働基準監督署から指導が入る
未払い残業代の請求をされているにもかかわらず、対応を放置していると労働基準監督者から指導が入る可能性があります。この指導を是正勧告と呼び、警告と同等の意味を持ちます。
是正勧告がなされたら、会社側は必要な措置を講じたうえで改善報告書を提出しなければなりません。何の対応もしない場合、罰則が適用される恐れもあるので注意しましょう。
従業員から訴訟を提起される
未払い残業代の請求を放置していると、従業員から訴訟を提起されるリスクもあります。民事訴訟に発展したら、遅延損害金(賠償金)を支払う可能性が高まるだけではなく、世間からの信用も下がりかねません。
また仮に遅延損害金の支払いを命じられた場合、これらは罰金とは違った扱いとなります。利率も適用され、ケースによっては多額の支払いも命じられてしまいます。さらに残業代と同じ金額を支払う付加金を別に支払うこともあるので、結果的に多額の経済的な負担が生じてしまうでしょう。
罰則が適用される
残業代の未払いは、労働基準法に反する行為です。対応せずに放置し続けていると、事業主には懲役6カ月以下または30万円以下の罰金が科せられることもあります。これらは刑事事件の扱いとなり、検挙されたら前科も付くので注意しなければなりません。
加えて事業主だけではなく、会社も罰金の対象になると規定されています(労基法第121条)。このように会社と事業主の双方が処罰の対象になる規定を、両罰規定と呼びます。責任者の立場である人は、この言葉も併せて覚えてください。
従業員から未払い残業代請求をされた場合
未払い残業代をいつまでも抱えていると、刑事と民事の両方でトラブルが起こってしまいます。そのため従業員から残業代を請求されたら、真摯かつ迅速に対応しなければなりません。
ここではどのように対応すべきかを、次の手順ごとに解説します。
- 計算(証拠提示)が誤っていないかを確認
- 和解と反論のどちらかに持っていくか
- 対策案を講じる
リスクを少しでも抑えるためにも、手順を確実に押さえましょう。
計算(証拠提示)が誤っていないかを確認する
従業員側が請求する段階では、プロの弁護士を雇っていないケースも珍しくありません。そのため金額を提示されたものの、相手側の計算が誤っていることもあるかもしれません。
提示された金額を鵜呑みにせず、まずは自社でも何度か計算しましょう。相手の請求が正しければ迅速に対応し、誤っていたらその旨をきっぱりと伝えることが大切です。
和解と反論のどちらに持っていくかを決める
従業員から急に残業代の請求をされても、すぐに受諾するのは望ましくありません。自社でも内容を細かく調べ上げ、反論すべき場合には毅然とした対応を取る必要もあります。
しかし話し合いだけでは、なかなか話がまとまらない可能性もあるでしょう。こうしたケースにおいては、労働審判手続により第三者を挟んで解決させるのが一般的です。
一方で従業員側に落ち度がなく、全て会社側に責任があることも考えられます。もし会社に落ち度があるときは、和解による解決も念頭に置きましょう。
対策を講じる
残業代の未払い請求が起こるのは、少なからず会社の管理にも改善点がある状態です。たとえ自社に非がなかったとしても、同じトラブルが起こらないように以下の対策を講じなければなりません。
- 従業員の労働時間を正確に記録・管理する
- サービス残業は禁止する
- 自社と従業員との労働契約を再度見直す
特に問題となりやすいのが、サービス残業が一般的に行われていることです。労働基準法でも禁止されており、たとえ従業員側の善意だとしても認めてはいけません。
労働基準監督署からの指導・監督が入った場合
従業員が労働基準監督署に相談した場合、原則として当該機関から指導や監督が入ります。指導に従いつつも、納得できない部分があればはっきりと主張することが大切です。対応時のポイントを詳しくまとめましょう。
立入調査に対応する
従業員から話を聞いた労働基準監督署側は、会社に対して立入調査を実施します。一般的には電話連絡が入るものの、突然訪問してくるケースも珍しくありません。
立入調査においては、担当者から次の書類の提出を促されるのが基本です。
- 就業規則
- 賃金規程
- 36協定に関する書類
- 直近6カ月間の賃金台帳やタイムカード
- 雇用契約書
- 従業員の名簿など
いつでも提出できるように、これらの書類は必ず保管してください。さらに調査する中で、さまざまな指示をされることが想定されるので、随時対応しましょう。
指摘された内容を是正する
立入調査で指摘された内容については、なるべく早めに是正しないといけません。残業代請求に関しては、一般的に未払い残業代の計算が命じられます。期日が設けられるため、迅速に対応できるよう心がけてください。
一方で計算ミスが見られると、再度労働基準監督署から是正勧告される恐れがあります。なるべく早めに取り掛かりつつも、計算に関しては慎重さも重視しましょう。
不服があったら意見書を労基に提出する
未払い残業代を計算し直したものの、自社の対応に誤りがなかったケースも考えられます。もし労働基準監督署の是正勧告に不服があったら、意見書を提出するのも方法のひとつです。
意見書を提出する前に、労働基準監督署の担当者から説明を聞きましょう。そのうえで納得いかないところをまとめることが大切です。
是正報告書を提出する
是正勧告書が労働基準監督署から届いたら、是正報告書の提出が必要です。一般的に是正勧告書には、次のように根拠法令や違反事項が記載されています。
法条項等 | 違反事項 |
労働基準法第32条 | 法定労働時間を超えて労働させていたにもかかわらず、割増賃金を支給していないこと。 |
具体的にどのようなルールを守っていなかったのかを把握し、早急に改善を試みましょう。対応をしたら、賃金台帳や領収書などの証拠書類を添付したうえで是正報告書を提出します。
是正報告書において、記載すべき事項は以下のとおりです。
記載すべき事項 | 内容 |
是正した内容 | 労働基準監督署からの指摘にどう対応したかをまとめる |
是正年月日 | 指摘された内容を是正した年月日を記載 |
是正事項の見直しや報告書の作成に関しては、弁護士のアドバイスをもとに進めるとよいでしょう。
相手側に弁護士がいた場合
未払い残業代を請求してきた従業員に弁護士がいるのであれば、会社側も弁護士に相談するのをおすすめします。プロの弁護士相手に素人が戦っても、不利になる可能性が高いでしょう。
また相手に弁護士が付いている場合、訴訟を起こされるケースも考えられます。民事訴訟を提起された際に、素人だけで応じるのは避けたほうが賢明です。
万が一のリスクに備えるためにも、日頃から顧問弁護士と契約を結ぶといった考え方もあります。事務所によってサービス内容は異なりますが、常に法律相談ができる環境を作っておくことが大切です。
【判例分析】企業側の未払い残業代における反論ポイント
企業側が勝訴した判例をもとに、未払い残業代請求に対してどのように反論すべきかを紹介します。あらかじめ当該内容を押さえておき、万が一トラブルが発生した際の参考にしてください。
従業員への反論ポイント
従業員から残業代未払いを請求されたとき、反論ポイントとなるのは次のとおりです。
- 相手の労働時間の計算に誤りがある
- 残業を禁止していた
- 固定残業制を採用している
- 消滅時効が完成している
- 相手が管理職である
これらは全て裁判所の判例でも、反論として認められた過去があります。上記のいずれかに該当していないかをチェックしてみましょう。
管理者への反論ポイント
管理職である場合、労働基準法の規定が適用されないのが基本です。したがって原則として、残業代は発生しません。しかし管理者であるにもかかわらず、未払い残業代を請求されることが稀に起こります。
もしこうした争いが起こったら、次のポイントから反論するとよいでしょう。
- 労務管理において重要な権限を持っている
- 経営方針を決める立場にある
- 出退勤が自由である
- 残業代の必要がないほどの待遇を受けていた
特にほかの従業員と比べて権限があり、優遇されていることが主な争点となります。
当事務所の残業代請求対応に関するサポート内容
下川法律事務所では、残業代請求対応についてもサポートできます。トラブル時の対応に加え、顧問弁護士と契約したい企業には以下のプランも用意しています。
プラン | トライアル | ライト | スタンダード | オーダーメイド |
月額費用 | 3万3,000円 | 5万5,000円 | 7万7,000円 | 11万円〜 |
対応可能時間(1カ月) | 1時間 | 3.5時間 | 6時間 | 個別見積 |
主な対応 | ・法律相談・社長の家族への法律相談・他士業紹介 | ・トライアルプランの対応全て・従業員の法律相談(1回のみ)・相談枠の確保・契約書作成や修正・簡易内容証明郵便の作成 | ・ライトプランの対応全て・企業訪問 | ・スタンダードプランの対応全て・社内研修 |
この中での一番人気はスタンダードプランです。残業代の問題に限らず、さまざまなトラブルに対応できるので下川法律事務所への相談を検討してみてください。