運送業(物流業)の労働環境において問題視されているのが、2024年問題です。労働環境を是正しようと法改正されたものの、むしろ今後の仕事にも負担がかかるのではと危惧されています。
とはいえ事業者の中にも、「2024年問題が仕事にどう影響を及ぼすか」がイメージできない人もいるでしょう。この記事を読むと2024年問題の具体的な内容に限らず、取り入れたい対処法についても理解できます。
運送業を営んでいる人は当記事を参考にしつつ、労働環境の見直しを検討してみてください。
2024年問題とは
2024年問題とは、運送業の時間外労働時間が960時間までに制限されることで生じる問題です。
運送業は業界特有の仕事スタイルや労働力不足などの理由により、長時間労働を強いられている状態が続いていました。こうした過酷な環境から労働者を救うべく、労働時間を制限して少しでも働きやすくなるようルールが制定されます。
しかし時間外労働が制限されたことで、新たな問題も生じるのではと危惧されています。これらのリスクを克服すべく、業界全体で対処法を実践しなければなりません。
主な改正点
2024年の法改正の内容について表で整理しましょう。
(自動車運転業務の法改正内容)
法改正以前 | 法改正後 | |
時間外労働の規制 | 特になし | 上限960時間 |
拘束時間 | (1日)原則13時間以内最大16時間(15時間超えは週2回を目安) (1カ月)原則293時間労使協定で320時間まで延長可(1年のうち6カ月まで) (1年)原則3,516時間 | (1日)原則13時間以内最大15時間(14時間超えは週2回を目安) (1カ月)原則284時間労使協定で310時間まで延長可(1年のうち6カ月まで) (1年)原則3,300時間労使協定で3,400時間まで延長可 |
休息時間 | 8時間 | 基本11時間※9時間を下回らない |
このようにルールが細かく定められているので、改正された法律に一度目を通してください。
働き方改革が求められた背景
運送業に働き方改革が求められた背景として挙げられるのが、長時間労働が問題視されたためです。運送業の仕事は遠方から指定された荷物を届けるといった性質上、夜間や明け方もトラックを運転しなければなりません。
そのため労働時間を管理しないと、一人の労働者の働く時間が増えてしまいます。この環境を放置すれば、労働災害を引き起こす可能性も高まるでしょう。このような背景もあって960時間という明確な制限を設けて、一人ひとりの健康状態を守ろうとしています。
運送業界はなぜ法改正がスムーズに進まないのか
運送業界の法改正が進みにくい理由としては、繁忙期の仕事の多さが挙げられます。運送業の繁忙期として考えられるのは、主に以下のシーズンです。
- 年末年始(クリスマスや正月などイベントが多い)
- 3月〜4月(引っ越しする人が多い)
- 7月〜8月(お中元や夏休みの関係により)
これらのシーズンは運ばないといけない荷物の量も多く、労働時間を削減するのが極めて難しくなっています。
荷物を運ぶには荷待ち時間を経なければならず、積み込みや荷下ろしも必要です。このようなステップを踏むと、自ずと長時間勤務することが強いられます。
加えて一般消費者が指定した期限にも間に合わせなければならず、サービスの質を上げるために長時間労働する企業も少なくありません。以上の理由より、法律で定めたとしても実態としては厳守するのが難しい状況にあります。
運送業における2024年問題による影響
一見すると運送業によい影響をもたらすように見える改革ですが、2024年問題として労働者の頭を悩ます要因にもなっています。ここでは2024年問題が、運送業においてどのような影響を与えうるかを解説しましょう。
トラック事業者の運送環境が厳しくなる
2024年問題の影響として考えられるのが、トラック事業者の運送環境が厳しくなる点です。労働時間に制限がかかれば、当然ながら物を運ぶ時間も限られてしまいます。本来であれば本日中に運送できるものが、法改正により翌日以降に持ち越しとなるケースも増えるでしょう。
また労働時間の兼ね合いから、輸送距離に制限が生じる可能性も考えられます。時間や輸送距離が制限されるのを考慮すると、従来と同じ量の荷物を運ぶには労働者の数を増やさないといけません。しかし希望どおりに労働者の数を増やすのは現実的ではなく、事業者からすると売上に影響が出る恐れもあります。
商品が一般消費者のもとに届きにくくなる
次に考えられる影響が、一般消費者のもとに商品が届きにくくなることです。運送業者が荷物を運搬するうえでは、荷主(荷物を送り出す所有者)から荷物を引き取って一般消費者に届けるといった工程を踏みます。
しかし労働時間に制限が生まれたことで、荷主からの荷物の預かり依頼を断らざるを得なくなる場合も考えられます。そうすれば荷物を引き取るタイミングが後回しとなり、結果的に一般消費者へ届けるのが遅れてしまうでしょう。
特に当日・翌日配達といった便利なサービスが、今後は提供できなくなることも懸念されます。したがってサービスの質も全体的に低下しかねないのも問題点のひとつです。
発生するコストが大きくなる
ほかにも運送業が抱えるリスクのひとつとして、業務にかかるコストが大きくなる点も挙げられます。特にコスト面で企業が重視しなければならないのが人件費です。
確かに労働時間が徹底的に管理されれば、一般的に残業代は少なくなります。そのため一見すると、人件費の負担は軽減されると認識してしまうかもしれません。
しかし残業代が少なくなったとしても、固定給は変わらずに支払う必要があります。仮に2024問題で売上が減少したら、相対的に人件費が高くなるといえます。
無論コストの事情は、企業によって異なるでしょう。そのため全ての企業のコストが必ずしも大きくなるわけではありませんが、労働者の生活にも関わるので注意が必要です。
人手不足がより深刻化する
企業によっては、人手不足が深刻化するといった影響も考えられます。労働者の中には、残業代も含めて収入源のひとつと考えている人もいるでしょう。しかし法改正で残業が難しくなれば、結果として収入が少なくなってしまいます。
そこで発生しうるのが、労働者の退職です。企業から人がどんどんいなくなり、事業を続けるのが難しくなるケースも起こる可能性があります。
また運送業が働きづらくなるという噂が広まった場合、新たな働き手を見つけにくくなるのも注意点のひとつです。社内の人数が少なくなれば、運送できる荷物の量も減らさざるを得ません。結果的に、売上にもさらに悪影響が及ぶ事態も想定されます。
運送業者の2024年問題への対処法について
運送業者にとって、2024年問題は深刻な事態となるかもしれません。こうした問題に悩まされないよう、具体的な対処法について説明します。企業によって環境は異なりますが、できることから取り入れてください。
労働環境の改善を徹底する
まず2024年問題を乗り越えるべく、企業に求められるのが労働環境の改善です。規定どおりに労働時間を縮小するだけではなく、働きやすい組織づくりを意識する必要があります。
特に意識しなければならないのが、今回の法改正によって受ける影響への理解です。労働時間を縮小すれば、当然ながら運送する荷物の量も少なくなります。こうした現象を受け止めず、無理に労働者を働かせて売上を伸ばそうとすると離職者を増やしかねません。
今回の法改正は、運送業者にもワークライフバランスを取り入れる目的もあります。世間の動きをしっかりと読み取りつつ、労働者視点でも物事を考えるようにしましょう。
システム化(DX化)に力を入れる
労働環境を改善するうえで、力を入れたいのがシステム化(DX化)の推進です。
特に運送業者の場合、荷待ち時間が長いために労働時間が増えていることも考えられます。こうした問題に対処するため、注目されているのがトラック予約受付システムです。使用する際の主な流れはこちらです。
- 運送業者がいつ頃到着するかを予約
- 荷主はその時間に合わせて荷物を下ろす
このシステムを取り入れるには、運送業者だけではなく荷主側の理解も得ないといけません。荷主側にシステム化を前向きに検討してもらうよう、周知を徹底するのをおすすめします。
広報活動により「人手不足」の解消を図る
2024年問題に対処するには、人手不足の解消を図ることも大切です。積極的に広報活動をして、人員確保に努めてください。自社の強みや労働環境改善に向けた取り組みを求職情報にも掲載し、しっかりと補充できるようにしましょう。
また広報活動は、一般消費者や荷主の理解を得るためにも欠かせません。DX化のみならず、人件費高騰をカバーするにはサービス内容や料金も変更せざるを得ないケースもあるでしょう。パンフレットを作成したり、SNSアカウントを運用したりとさまざまな方法で情報提供を試みてください。
労務問題について当事務所でサポートできること
国が法律を改正することで、企業の業務に変化が生じるケースは少なくありません。しかし法改正の更新状況を全て把握し、いち早く対応するのは極めて難しいでしょう。
そこで下川法律事務所に在籍している顧問弁護士と契約いただければ、法改正の情報もしっかりとお届けします。ほかにも顧問弁護士と契約をすることで、以下の労務問題に関するサポートも可能です。
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