飲食店を経営するうえでの代表的な法律問題としては、未払残業代の請求等の従業員との間の労務関係のトラブル、お客様とのトラブル、賃借している店舗に関連する不動産トラブル等が考えられます。以下、これらについて解説していきます。
従業員との関係
飲食店においては、店舗で実際に調理や接客を行う従業員は、大半がパートやアルバイトである場合が多く、パートやアルバイトの存在なくしては成り立たないのが実情です。このため、従業員の入れ替わりが多い業界です。
また、正社員には、店長とうの肩書きが与えられ、店舗の責任者として配置される場合が多いですが、正社員の人数は少ないため、その業務過多に陥ることが多いという特徴を持っています。そのような労働環境においては、以下の様は法律問題が考えられます。
・未払残業代
飲食業界はもともと人手不足といわれていますし、夜の営業の他にランチ営業を行ったりと、長時間労働になりがちです。このため、未払残業代の請求を巡るトラブルは、最もご相談が多い分野の1つです。最近では、インターネットでの広告等の影響もあり、退職した従業員が、後になって突然弁護士を立てて、請求してくるということも少なくありません。例えば以下の様な場合には注意が必要です。
小規模の事業者においては、タイムカードがなかったり、休憩時間中にも仕込み等の業務を行わせている等、勤務時間がしっかりと管理されていない場合があります。
また、店長やマネージャー等の肩書きがある従業員を、管理監督者とみなして、残業代を支払わないこととしているケースも多く見受けられます。たしかに、実際に管理監督者と判断されれば、残業代を払う必要はありません。
しかし、休憩時間中であったとしても、何らかの労働を行わせている場合には労働時間をされてしまいますから、そのような従業員がなんらかのトラブルをきっかけに、突然残業代を請求してくることが考えられます。
また、管理監督者であるかどうかは、肩書きだけで判断される訳ではなく、職務内容や、裁量権、待遇等を総合的に考慮して判断されるものです。このため、マネージャーや店長と言った肩書きを与えているからといって当然に管理監督者として、残業代を支払わなくても良いというわけではなく、後々残業代を請求されてしまうことがあるのす。
実際に未払残業代を請求された際には、従業員の主張している労働時間が本当に正確なのかを精査し、また、肩書きがあっても管理監督者ではなかった等と主張されているのであれば、実質的に見ても管理監督者であった等の反論を検討していくことになります。
しかしながら、請求された段階で出来る反論には限りがありますので、従業員とトラブルが起こった際に備えて、日頃からきちんとした労務管理を行っておくことが大切です。
固定残業代の導入を検討することも考えられます。固定残業代とは、会社が一定時間の残業を想定し、あらかじめ月給に固定の残業代を計上・記載し、残業時間にかかわらず、固定分の残業代を支払うという制度です。この点、従業員から見れば、残業時間が短い場合井は、実際の残業時間よりも多くの残業代がもらえることになるので、業務の効率化につながり無駄な残業は減るというメリットがあります。しかし、固定残業代を導入していても、従業員がその時間を超えて残業をしていた場合には、その分の残業代を加算して支払わなければなりませんし、裁判の場で問題となった場合には、その有効性は厳しく判断されることになり、リスクを伴います。このため、制度の導入に当たっては、弁護士に相談しながら勧めることが大切です。
また、店長やマネージャーを管理監督者としているのであれば、その裁量・待遇が、法的に見ても実質的に管理監督者であるか等、難しい問題もあると思いますので、その点についても、事前に弁護士に相談しておくことが有効です。
・問題従業員への対応
例えば、男性従業員が、女性アルバイトに交際を迫る等、セクハラやパワハラのトラブルが発生することもあります。
従業員同士のトラブルには適切に対処しなければ離職の原因になったり、場合によっては、従業員に対する安全配所義務違反として、賠償責任を負うこともあり得ます。
このため、従業員同士のトラブルには適切に対処することが必要となります。
具体的には、当事者や関係者に対して聴き取りをするなど、事実確認を行った上で、セクハラやパワハラが事実であれば、事案の重さに応じて、適切に指導・処分などを行いましょう。
従業員を処分するのには、リスクが伴う一方で、問題を放置していれば、被害者に対する安全配慮義務違反として、使用者が責任を問われることがありますので、どのような処分をどのような手順で行うのか、専門家である弁護士の助言を受けながら、慎重に進めるべきでしょう。
利用客との関係
飲食店においては、従業員がフード・ドリンクを運ぶ際にこぼしてしまい、お客様にかかってしまうといったようなトラブルが日常的に発生します。
このような想定しうるトラブルに対しては、例えば、従業員は、そのようなトラブルが起こった際には、するにお客様に対して謝罪した上で、きれいなタオルを用意し、拭き取りを提案すること、クリーニング代をお渡しするなど、あらかじめマニュアル化をしておくことが必要です。また、そのようなことを起こさないよう、従業員を教育しておくことも重要です。
これに対して、飲食店においては、お酒が入ったお客様が、従業員(特に女性)に対して、セクハラ行為を行うというケースもあるでしょう。
そのような場合には、従業員を守る姿勢で毅然と対応することが大切です。そうでなければ、従業員は辞めてしまいますし、場合によっては、従業員に対する安全配慮義務違反にも問われかねません。
具体的な対応策としては、個々と事案に即してということになるので、一律にどういった対応を取るべきということを事前に検討することは出来ませんで、まず、被害に遭った従業員や関係者から聴き取りをするなどした上で、事実確認をし、セクハラ行為が事実であれば、それを止めてもらうように警告するというところからスタートすることになるでしょう。場合によっては、お店への出入りを禁止することも検討することも必要になるでしょう。
逆恨み等の問題も発生することがありますので、お客様の問題行動によってトラブルに発展しそうな場合には、弁護士にご相談されることをおすすめします。特に、顧問弁護士であれば、事業者の日常業務の内容等を熟知しており、また、一般の依頼者に優先して対応を行うことが出来るため、スピード感を持って、問題が大きくなる前に対応することも可能となります。
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家主との関係
飲食店では、店舗を借りて営業をしていることが多いので、賃貸不動産に関するトラブルも発生しがちです。とくに、定期賃貸借と普通賃貸借との違いには注意する必要があります。
店舗を開業してから、お客さんから認知され固定客がつくのにはそれなりの時間を要するにもかかわらず、固定客がついた段階で、賃貸借契約が終了し、店舗を移転しなければならなくなるというのは、飲食店にとって死活問題といえるでしょう。
すなわち、定期賃貸借契約は、あらかじめ決められた期間が終了すれば、賃貸借契約は終了してしまいます。終了後、再契約を行うことも出来ますが、再契約をするかどうかは大家さんの自由ということになります。
これに対して、普通賃貸借契約にも期間は定められており、期間経過後は更新するとされていますが、借地借家法で強く保護されていますので、正当な理由がなければ、大家さんは更新を拒絶することが出来ないとされているのです。
このため、飲食店にとって、定期賃貸借契約と普通賃貸借契約では全く違う契約ということになります。
そのほかにも、賃貸物件の使用目的や、店舗改修等の際の業者の指定の有無、原状回復義務の範囲など、飲食店の賃貸借契約において、トラブル防止のため、事前に検討しておくべきことは多岐にわたりますので、店舗出店にあたり賃貸借契約の内容を事前に確認しておきたいという事業者様につきましては、弁護士にご相談いただければと思います。
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