会社を経営するには、経営陣と従業員の信頼関係の構築が欠かせません。しかし経営陣側が気を付けていても、従業員が会社を裏切ることもあります。その裏切り行為の一つとして挙げられるのが横領です。
この記事では、業務上の横領を行った従業員に対する対応方法について紹介します。横領罪の法定刑や構成要件に加え、対応する際の注意点もまとめている記事です。経営陣を中心に、部下を管理する立場の人はぜひ記事を参考にしてください。
横領の定義について
横領とは、自分が占有している他人の所有物を不法に使用・売却する行為のことです。例えば友達から「預かってほしい」と言われた自転車を、無断で市場に売却した場合が該当します。
一般的に横領罪は、単純横領罪・遺失物横領罪・業務上横領罪の3パターンに分かれます。会社で特に問題となるのは、業務上横領罪です。ここでは業務上横領罪の法定刑や構成要件、実際の仕事で見られる具体例を解説しましょう。
業務上横領罪の法定刑や構成要件
業務上横領罪は刑法の第253条に定められており、法定刑は10年以下の拘禁刑と定められています。なお業務に関係なく、私生活における単純横領罪の法定刑は5年以下の拘禁刑です。したがって業務上横領罪のほうが、刑罰の内容が重くなるように定められています。
業務上横領罪の構成要件は、次の4点です。
- 業務に関係している
- 会社との信頼関係(委任信託関係)に基づいて占有している
- 他人の物である
- 横領した
刑法のルールでは、金額については細かく規定されていません。少額でも業務上横領罪に該当するケースはあるため、こうした問題が見られたらしっかりと対処しましょう。
業務上横領罪の時効
業務上横領罪の公訴時効は、7年間と規定されています。もし刑事告訴を検討する場合は、なるべく早めに対処したほうが賢明です。
民事訴訟の場合、業務上横領罪は「不法行為」に該当します。不法行為による損害賠償請求の時効には、次の2通りがあるのを押さえてください。
- 損害および加害者を知ったときから3年間
- 不法行為時から20年間
仮に時効の期間に間に合ったとしても、あまりにも時間が経過しすぎると証拠の信頼度も落ちてしまいます。証拠不十分と裁判で認識され、自社の望む結果が得られにくくなるでしょう。そのため時効期間に関係なく、従業員の横領が発覚した時点で迅速に対応してください。
業務上の横領を行った従業員への対応方法
従業員が業務上の横領を行った場合、以下の方法を検討してみるとよいでしょう。
- 懲戒処分
- 民事訴訟上の損害賠償
- 刑事告訴
いずれかを選ぶだけではなく、全ての方法を選ぶことも可能です。各方法に分けて、どのような対応をすればよいか説明しましょう。
懲戒処分を検討する
まず業務上横領罪が見られたとき、会社の対応方法として挙げられるのが懲戒処分です。懲戒処分をするには、就業規則に規定しなければなりません。懲戒事由についてはあまり細かく定めすぎると「該当するかどうか」で争いが生じるため、なるべく網羅的に記載しましょう。
懲戒処分の内容は、大きく分けて以下の種類があります。
懲戒処分 | 内容 |
戒告 | 口頭での注意 |
けん責 | 始末書を提出させる |
減給 | 給料から一定額を差し引く |
降格 | 役職を引き下げる |
出勤停止 | 労働契約は結びつつも出勤を禁じる |
諭旨解雇 | 従業員に退職届を提出させたうえで解雇 |
懲戒解雇 | 退職届を提出させずに解雇(最も重い) |
横領は刑事罰にも処される行為であり、その罪の重さから懲戒解雇も認められやすいでしょう。むしろ軽い処分で済ませるのは、「横領してもクビにならない」という前例を作ってしまうので避けたほうが賢明です。
民事訴訟上の損害賠償を請求する
従業員をクビにするだけではなく、民事訴訟の損害賠償も検討するのをおすすめします。こちらの訴訟は、刑事訴訟とはまた別の手続きです。仮に刑事告訴をすると決めても、民事訴訟は別に提起しなければなりません。
また基本的に専門性が高いため、訴えを起こすときは弁護士に相談したほうが賢明です。弁護士がいなくても訴訟自体は起こせますが、思い通りにいかなくなる恐れもあります。専門的なアドバイスを受けている状態で戦えるようにしましょう。
民事訴訟のほかにも、民事調停で争うといった方法も可能です。民事調停とは、裁判所が当事者の間に入り紛争を解決する手段を指します。裁判よりも低費用で済み、強制執行も認められるといった強みがあります。ただし出廷を義務付けられないので、相手が訪れない場合は訴訟へ移るのが基本です。
刑事告訴を検討する
従業員を罰してほしいと思うのであれば、刑事告訴も検討しましょう。一般的に業務上横領罪を刑事裁判にかけるには、管轄の警察署へ告訴状を提出します。
ただし警察も、証拠がないと動きようがありません。そのため告訴状を提出する際には、必ず証拠も一緒に提出しましょう。
告訴状を受理した警察は、社内や会社の関係者に対して捜査を行います。もし従業員が逮捕・勾留された場合、拘束される期間は最大で20日間です。
検察官はその間に起訴するかを決めないといけないため、捜査にはしっかりと協力してください。さらに進捗状況を定期的に警察へ確認すると、より積極的に捜査してもらいやすくなります。
業務上横領を行った従業員への対応についての注意点
業務上横領を行った従業員に対応するには、いくつかの注意点を守らないといけません。何も考えずに手続きを進めてしまうと、自社が不利な立場に追いやられる恐れもあります。ここでは特に守ってほしい注意点についてまとめます。
慎重に事実関係を調査する
企業が気を付けなければならないのが、慎重に事実関係を調査することです。
証拠が出揃っていない状態で本人と話をしても、相手がシラを切る恐れもあるほか、実際は無実であるケースも考えられます。まずは自社で証拠集めをし、言い逃れできない状況を作りましょう。
確固たる証拠として挙げられるのが、防犯カメラや経理システムなどに残るデータです。「いつ」「誰が」「どこで」といった内容が記録されていれば、信ぴょう性も高まりやすくなります。システムの導入を日頃から検討するとよいでしょう。
こうしたデータ以外にも、同僚からの証言を参考にする方法もあります。とはいえ同僚が共犯である可能性も考えられるので、あくまで参考材料の一つと捉えてください。
本人にしっかりと自白させる
事実調査により証拠が集まったら、本人との話し合いをしましょう。話し合いをする際には、事前に予告をしないことが重要です。あらかじめ予告してしまうと、証拠を隠ぺいされる危険性も高まるので注意してください。
また自白の内容は、なるべく具体的に記録しなければなりません。単純に事実だけを記録しても、証拠として有効にならない恐れがあります。「いつ横領したか」「動機や方法」なども細かく確認しましょう。
本人に支払能力がないことも想定しておく
たとえ従業員の横領の事実が発覚しても、すぐにお金を返してもらえるとは限りません。業務横領罪は1回の行為で数百万円を盗まれることもありますが、それをギャンブルに使われるケースも多いためです。
そこで民事訴訟の手続きをするうえでは、給料の差し押さえも検討しましょう。こちらは横領してクビになった元従業員が、別の会社で貰った給料を差し押さえるといった方法です。
給料を差し押さえるには、公正証書による債務名義を取得しなければなりません。民事訴訟の判決や民事調停の決定が、基本的には債務名義となります。
執行認諾文言が必要になるなど、差し押さえはルールも細かいので注意が必要です。
公表は避けたほうが賢明
横領の事実について、社内や世間一般に対して公表したいと思う企業もあるでしょう。しかし法的リスクを考えると、公表はなるべく避けたほうが賢明です。
事実の公表は、今後の横領への防止策になるという考え方もあります。ただし何も考えずに相手の名前や個人情報を明るみにすると、名誉毀損などにより損害賠償を請求される可能性が高まります。
無論、横領自体は犯罪行為かつ裏切り行為であるため、従業員を無理に守る必要はありません。しかし名誉毀損は、仮に違法な行為をした者の名前を公表した場合でも適用されます。
仮に社内や株主に説明するのであれば、横領の事実のみを説明して個人の情報は伏せるようにしてください。
今後の防止策も検討する
ある程度問題が解決に近づいたら、今後の防止策も考えなければなりません。まず社内で徹底すべきポイントが、横領しやすい環境を是正することです。
例えば多額のお金が動く業務について、従業員一人で対応する状態では横領がしやすくなります。権限を一人に持たせるのではなく、複数人で担当するようにしましょう。
特に注意しないといけないのが、インターネットバンキングでの振込や振替です。パスワードを一人で管理していると悪用される可能性も高まるので、セキュリティには気を配りつつ上位者もチェックするとよいでしょう。
併せて、収支の状況がしっかりと合っているかを定期的に確認してください。このように防止策を考えるうえでは、社内全体のあり方を見直すことが重要です。
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