タイムカードの残業代請求対応の場面での活用法ついて弁護士が解説

no-img

「もし残業代のトラブルが発生した場合、正しく対応できるか不安である」

上記のような悩みを抱えている経営者も少なくないでしょう。

特にタイムカードで出退勤の時間を管理していると、その記録を巡ってトラブルになることもまれに起こります。この記事では、残業代請求への対応におけるタイムカードの活用法を紹介します。

タイムカードの重要性や役割に加え、どういった使い方をすればトラブルを防ぎやすくなるかを理解できる記事です。経営者または支店等の責任者は、記事の内容をしっかりと押さえてください。

残業代請求におけるタイムカードの重要性

タイムカードは、労働時間を推定するうえで重要な証拠です。ただしタイムカードに打刻された出退勤の時刻が労働時間と同一に考えられるかは、裁判例によっても異なります。

一般的には、特別な事情がない限りは「タイムカードの表記=労働時間」として捉えます。一方で就業規則に時間外労働の定めを明記していた場合、例外的なパターンにあたると示した裁判例も過去にありました(東京地判平25.5.22労判1095号63頁)。

いずれにせよ、裁判沙汰となればタイムカードの情報をもとに裁判が進みます。記録を残すうえでも、社員にしっかりと打刻してもらうよう指導してください。

残業代の支払い対象となる労働時間について

そもそも賃金が発生する条件は、社員が使用者の指揮命令下に置かれることです。直接的に残業を指示していなくとも、時間内に終わるはずのない業務量を課していれば、黙認していたとみなされます。

指揮命令下にあたる例として、主に以下のケースが該当します。

  • 準備時間
  • 研修の参加を命じた
  • 持ち帰り残業を命じた

それぞれのケースにおいて、業務とみなされる条件を解説しましょう。

始業前の準備時間

まず会社側が注意しなければならないのが、始業前の準備にかかる時間です。これまでは、始業時間より早めに来るのは当たり前という認識が一般的でした。いまでも、10〜15分前に着いて準備する人は数多くいるでしょう。

もし始業前の準備を社員が自主的にしていたら、指揮命令下に該当せず残業代も支払わなくてよい可能性があります。しかし始業前にミーティングをするなど、実質的に業務と認められたら残業代の支払い義務も生じるのが原則です。

強制的に研修の参加を命じたとき

企業側が社員に研修への参加を命じた場合、その分の賃金も発生しうることも押さえておきましょう。直接的に命令を下していなくとも、参加しないと業務に多大な支障が出るのであれば支払い義務が生じます。新人研修や教育訓練も、基本的に扱いは同じです。

一方で研修には、業務との関連性が薄く社員自らが参加する場合もあります。新人研修や教育訓練にも該当しなければ、原則として残業代の支払い義務はありません。

とはいえ社内のほとんどの人が参加しており、社員が断りづらいケースもあるでしょう。このような事情があれば、残業代の支払い義務が発生する可能性もあるので注意してください。

持ち帰り残業を指示したとき

企業が社員に対して持ち帰り残業を指示したときも、残業代が発生すると考えられています。持ち帰り残業は、社員が自主的に行うのが一般的です。社員個人の判断であれば、指示命令下には該当しないので残業代の支払い義務は生じません。

しかし仮に責任者が業務を家で進めるよう指示し、社員が応じたら指示命令下に置いていると捉えられます。この場合は、例外的に残業代を支払わないといけないので注意しましょう。

とはいえ持ち帰り残業は、どの程度の時間がかかったかを管理するのが困難です。情報漏洩など、別のリスクが発生する恐れもあります。そのため持ち帰り残業を指示するのは避けたほうが賢明です。

タイムカードの役割

タイムカードを採用すると、残業の管理において役立つポイントがいくつかあります。ここでは、タイムカードの役割について詳しく解説します。普段タイムカードを使用している企業は、どういった特徴があるのかを改めて押さえてください。

出退勤の時間を確認できる

タイムカードの持つ一番の役割は、出退勤の時間を確認する点です。社員がどのくらい社内に滞在していたかを判断するのに役立ちます。

ただし上述したとおり、出退勤の時間が労働時間に等しくなるとは限りません。時間外労働に該当するかは、最終的には就業規則や上司による指示の有無などで判断されます。

そのためタイムカードとは別に、残業にかかる申請書を出してもらうといった対処も必要です。労働時間との差異を極力なくすように努めましょう。

休憩時間の管理にも役立つ

タイムカードは、休憩時間の管理にも役立ちます。一般的な会社のルールでは、休憩時間に打刻する必要はありません。労働基準法において、休憩時間に関する明確な規定が設けられているためです。

(労働基準法第34条の内容)

労働時間最低限必要な休憩時間
6時間〜8時間以下45分
8時間を超える1時間

しかしタイムカードなどで管理をしていないと、この規定を意図的に破る人が現れるかもしれません。仮に実際の労働時間が8時間以内でも、休憩が短かったら社員の心身に悪影響が及んでしまいます。休憩時間もしっかりと記録することで、働きやすい環境をつくりやすくなります。

長時間労働の防止につながる

タイムカードは、長時間労働を防止するうえでもおすすめです。もちろんタイムカードでの対応も完璧とはいえず、より正確に時間を測るには勤怠管理システムが推奨されています。

労働時間の管理においては、打刻に不正があってはいけません。例えば自己申告制(自分でエクセルに入力するなど)を採用すると、数字が改ざんされやすくなります。

タイムカードを正しく管理し、こういった改ざんも防げれば社員の労働時間を大体把握できます。使用者側も随時チェックし、あまりにも残業が多すぎる社員には仕事の割り振りを見直したり、定時で帰るよう促したりしてみましょう。

労働時間管理におけるタイムカードの活用法

労働時間をしっかりと管理するには、タイムカードの活用法も見直す必要があります。正しく使えていなければ、不当な残業代請求をされた場合でも、自社が不利な立場に置かれてしまいます。特に使用者は、ここで紹介する活用法を必ず押さえてください。

「打刻時間=労働時間」ではないことを示すために

不当な残業代を請求されないためにも、「打刻時間=労働時間」ではないことを就業規則で示さなければなりません。打刻時間と労働時間のズレを防ぐには、就業規則で「実働時間」を定めることが大切です。

始業時間と終業時間しか定めていない場合、社員が2時間ほど遅刻してその分働いたとしても、2時間分を残業したとみなされるケースも考えられます。

そこで実働時間(8時間など)も就業規則に明記すると、規定した時間を超えない分は残業代の支払い義務が生じません。柔軟な働き方にも対応できるので、しっかりと定めておくようにしてください。

タイムカードについて社員へ説明

タイムカードを取り入れている企業は、社員に対して正しい使い方を説明しましょう。その際には就業規則(実働時間等)の説明もすることで、労働時間に対する認識のズレを防ぎやすくなります。

特に打刻時間の改ざんは、労働基準法違反や刑法違反に該当します。使用者のみならず、社員も罰せられる可能性があるので注意が必要です。

タイムカードでの改ざんを防ぐには、不正打刻がなされないよう責任者がしっかりと管理しなければなりません。これらのルールも社員にもしっかりと周知し、正しくタイムカードを使用するよう徹底してください。

ミスが発覚したときは従業員に修正を命じる

タイムカードを使用し続けていると、社員が誤って不要な打刻をしてしまうこともあるでしょう。ただし打刻を間違えると、賃金の支払いでトラブルが起こりやすくなります。

そのため社員の打刻のミスが発覚したら、必ず本人に修正を命じてください。打刻後、急遽残業が発生した場合も同様の指示を出しましょう。

世の中にはタイムカードを修正させて、労働時間を少なく見せようとする悪質な使用者もいます。こうした意図がなくとも、修正の指示に対して疑問を抱かれる恐れがあります。

改ざんを疑われないようにするには、タイムカードとは別に記録をとるのがおすすめです。客観的に把握できる記録をつければ、争いが生じたときの証拠にもなります。

ほかの管理方法も試してみる

残業代を巡るトラブルへの防止策として、タイムカードはやや不安な部分もあります。いくら厳重に管理していても、改ざんされやすい方法であることに変わりないためです。

タイムカードよりもセキュリティが高くなる方法として、勤怠管理システムの導入が挙げられます。勤怠管理システムとは労働時間のみならず、休暇や割増賃金の計算も一元管理できるツールです。

自動集計機能によってデータを管理するので、計算ミスも防げるでしょう。ツールの中にはICカードのみならず、生体認証を用いた種類も存在します。

残業代請求対応について当事務所でサポートできること

社員からの残業代請求対応について、困っている企業は下川弁護士事務所にお問い合わせください。広島市を中心に活動しており、さまざまな労働問題解決のサポートをしています。

残業代の支払いに問題がないよう、就業規則の作成やチェックを提供します。費用はそれぞれ以下のとおりです。

  • 就業規則の作成:22万円〜
  • 就業規則のチェック:11万円〜

(※詳しくは個別お見積り)

労働紛争に発展した場合は、以下のサービスも提供しています。

(着手金)

  • 交渉:22万円〜
  • 労働審判:33万円〜
  • 訴訟:44万円〜

(※詳しくは個別お見積り)

(報酬金)

経済的利益の10%

残業代請求対応以外にも、日々の業務に関して相談したい場合は顧問契約も検討してください。

代表弁護士 下川絵美

この記事の監修者

代表弁護士 下川絵美
私は,大学を卒業してから一般企業で勤務していた際,人の役に立てる仕事をしたいと突然思い立ち,司法試験を受け,弁護士登録以来ずっと広島で業務を行っています。
どのような事件であっても,法律事務所にご相談に来られる方は,みなさま様々なご事情を抱えておられます。私たちは,そのようなご依頼者様一人一人のご事情に応じて,専門的知見に基づいたベストな方法を検討し,ご依頼者様とともに,納得のいく解決を目指し,日々精進しています。
まずはお気軽にご相談くださいませ。
法律相談のご予約はお電話で 平日:9:30~18:00 TEL:082-512-0565 法律相談のご予約はお電話で 平日:9:30~18:00 TEL:082-512-0565 ご相談の流れ