「問題行動を起こした社員をクビにしたいものの、解雇が妥当か否かがわからない」
日々の仕事の中で、このような悩みを抱えていませんか。
不適切な理由で解雇してしまうと、辞めさせた従業員から訴訟を提起される恐れがあるので注意しなければなりません。
この記事を読めば、解雇の種類やそれらの要件をある程度は理解できます。
問題社員への対応に困っている経営者は、ぜひ参考にしてください。
解雇理由とは?
解雇理由とは、従業員を解雇するに至った要因のことです。具体的な事由については後述しますが、主なケースは大きく分けて3種類あります。
- 従業員の能力不足
- 従業員の法律(就業規則)違反
- 経営上の事情
とはいえ日本は解雇に厳しく、一見上記の内容に該当しても不当な処分とみなされることは少なくありません。仮に理由が不当だと裁判などで判断されたら、処分の撤回や慰謝料請求といった対応が必要となります。
解雇の種類について
解雇には、大きく3種類に分けられます。
- 普通解雇
- 懲戒解雇
- 整理解雇
まずは、これらの概要をしっかりと押さえてください。
普通解雇
普通解雇とは、懲戒解雇や整理解雇に該当しない解雇のことです。勤務態度の悪さが目立ちすぎたり、著しく能力が不足していたりする場合に行使されます。
普通解雇は会社都合退職で扱われ、一方的に解雇処分を言い渡せば退職金を支払わないといけません。ただし就業規則で定めた減額支給の条件に該当し、規定が正当であれば全額払わなくてもよい場合があります。
懲戒解雇(諭旨解雇)
懲戒解雇は、従業員への罰としてなされる解雇を指します。懲戒処分の一種であり、なかでも最も重い処分にあたります。主に適用される理由として挙げられるのが、非違行為(犯罪や就業規則違反)です。
退職金を不支給あるいは減額支給とするには、就業規則でその旨の規定を設けつつ従業員の行為が著しい背信行為にあたると認められる必要があります。勝手な判断で退職金を渡さなかった場合、後々トラブルに発展しかねないので注意してください。
なお懲戒処分のなかで、2番目に重いのが諭旨解雇です。こちらは、従業員自らが退職するように促す懲戒処分を指します。一方で従業員が拒んだら懲戒解雇の手続きに進むケースも多く、結局のところ強制力が働いているのが特徴です。
整理解雇
整理解雇は、企業が経営不振に陥ったときに従業員を解雇する方法です。普通解雇や懲戒解雇とは異なり、従業員に落ち度がなくとも適用される場合があります。こちらは会社都合退職に含まれるので、原則として退職金は支払わなければなりません。
加えて以下の解雇制限については、整理解雇でも同様に適用されるので注意してください。
- 業務災害で療養している
- 産前産後休暇を取得している
一方で天災事変を起因とする場合や打切補償を支払っているときは、上記の制限が適用されません。その際には、労働基準監督署長の認定が必要です。
従業員を解雇する際の根拠について
従業員を解雇するには、法律や就業規則の根拠に基づいて行わなければなりません。ここでは普通解雇・懲戒解雇・整理解雇に分けて、それぞれの根拠を解説します。
普通解雇の場合
普通解雇の全体的な根拠は、主に労働基準法(第20条1項)で定められています。この条文に記されている条件は以下のとおりです。
- 30日前の解雇の予告が必要
- 予告できない場合は30日分以上の平均賃金を支払う
従業員が常に10人以上いる会社は、普通解雇についても就業規則を労働基準監督署に届けなければなりません。したがって、法律および就業規則を根拠に処分を下すのがポイントです。
一方で普通解雇の条件を示した法律は、労働基準法だけではありません。例えば「女性だからクビにする」など、性別による解雇は男女雇用機会均等法第6条で禁じられています。
ほかにも「育児休暇の取得の要求」を解雇事由にするのは、育児・介護休業法の禁止事項です。労働基準法だけで判断するのではなく、他の法律に抵触していないかを必ず確認してください。
懲戒解雇の場合
懲戒解雇は、企業で定めた就業規則が根拠となります。懲戒解雇が認められるには、あらかじめ就業規則でその旨を定めなければなりません。また条件を具体的に定めなければ、効力が発揮しない点にも注意が必要です。
民法や労働基準法といった法律では、懲戒解雇の内容を特に定めていません。一方で地方裁判所の裁判例または最高裁判所の判例が、根拠となる場合があります。もし従業員を懲戒解雇できるか迷ったときは、似たような事例がないかを弁護士に問い合わせてみるとよいでしょう。
整理解雇の場合
整理解雇の根拠は、普通解雇と同様に労働基準法を中心とする法律が一般的な根拠となります。第20条のただし書きをみると、天災事変などによる解雇の場合は30日前の予告が不要です。
整理解雇も退職金の取り扱いや選定基準など、細かい点で揉め事が起こる可能性はあります。こうしたトラブルを防ぐうえでも、普通解雇と同じく就業規則で根拠を明確に提示しましょう。
具体的な解雇事由について
次に種類ごとで適用されうる解雇事由を解説します。今後、解雇の判断を採る際の参考にしてみてください。
普通解雇:能力不足でミスの改善が見られない
普通解雇が認められる理由として挙げられるのが、能力不足でミスの改善が見られないことです。ただし、単純にミスが多いだけでは基本的には解雇できません。成績不良が著しく、何度も注意・指導したことが主な要件とされています。
また従業員が試用期間中であれば、解雇のハードルも著しく低いと考える人もいるかもしれません。しかし試用期間中の場合でも、能力不足で解雇するには客観的に見て合理的な理由が必要となります。
普通解雇:精神面の不調が続いている
従業員に精神面の不調が続いている場合、解雇が認められるか否かは精神疾患に陥った理由によって異なります。従業員のプライベートに原因があれば、会社に責任はありません。そのため業務に著しい支障が出ている際には、解雇が認められる可能性は高いといえます。
一方で、精神疾患に陥った理由が企業にある場合は解雇できません。こちらは労働基準法第19条で、業務上疾病で療養している間は30日間解雇できないと定められているためです。
精神面の不調はさまざまな要素が影響しているので、原因を簡単に特定できるものではありません。該当の従業員と慎重に話し合いつつ、退職勧奨を採るといった方法を優先させましょう。
懲戒解雇:犯罪行為が見られた
懲戒解雇の事由として認められるケースは、業務上の犯罪行為が見られたときです。例えば、会社のお金を横領するケースが該当します。しっかりと証拠を残しておけば、基本的には妥当性が認められるでしょう。
しかし業務外の犯罪については、必ずしも懲戒解雇の対象になるとは限りません。懲戒解雇は、業務との関連性が重視されるためです。もし業務外の犯罪行為を理由とするのであれば、企業との関連性を具体的に提示しなければなりません。
懲戒解雇:職務怠慢により秩序を乱している
犯罪行為に該当しなくとも、職務怠慢により企業の秩序を乱した際に懲戒解雇が認められるケースもあります。無断欠勤を繰り返したり、与えられたタスクを放置したりしている従業員は懲戒解雇の対象になりうるでしょう。
とはいえ、何もプロセスを踏まずに解雇を言い渡すのは望ましくありません。最初は注意指導を行いつつ、徐々に処分を重くするように心がけてください。
整理解雇:経営不振による人員削減
整理解雇が認められるのは、企業が経営不振に陥り人員削減を余儀なくされたときです。整理解雇を適用できる基準として、以下の条件が挙げられます。
条件 | 具体例 |
人員削減の必要性 | 債務超過で人件費削減が必須 |
選び方の妥当性 | 年齢、家族構成、資格の有無などを平等に判断 |
解雇回避努力を尽くした | 希望退職者の募集、勤務時間を短縮 |
差別的な扱いをしていない | 性別など先天的な理由で選んでいない |
いくら経営が厳しくても、条件を満たしていなければ解雇は認められません。就業規則に基づき、公正に対処することが求められます。
解雇後の流れについて
会社は従業員に解雇を言い渡したあとも、さまざまな手続きをする必要があります。ここでは、主に解雇後の流れを説明しましょう。
失業保険関連の手続きをする
従業員に対する重責解雇処分(懲戒解雇の中でも責任が重い処分)を除けば、基本的に解雇は会社都合退職です。解雇の判断を採った際には、従業員に失業保険が支給されるよう離職票を発行しなければなりません。窓口はハローワークになるため、しっかりと手続きを済ませましょう。
また、当該従業員を社会保険から脱退させる手続きも必要です。従業員が退職してから5日後、事業所の所在地管轄の年金事務所にて「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を提出しましょう。添付書類として必要になるため、事前に従業員から健康保険証をもらってください。
給料や解雇予告手当を支払う
従業員を解雇したあと、未払いの給料を支払い忘れないよう注意が必要です。また不支給の要件に該当しない場合は、退職金を支払う義務もあります。給料や退職金の未払いは、後々のトラブルにも繋がるので誠意を持って対応しましょう。
また30日前の解雇予告ができない場合、原則として解雇予告手当も支給しないといけません。人事と連携を取りながら、不備なく手続きを進めることが求められます。
従業員の解雇について当事務所でサポートできること
解雇に関するルールは、法律で細かく定められています。ただし実務となると複雑なケースも多く、軽率な判断が重大なトラブルに繋がりかねません。そのため解雇の判断を下す前に、弁護士と相談しながらよりよい方法を探すことが大切です。
当事務所は、地域密着型で企業の悩み解決に向けて全力で取り組んでいます。電話だけではなく、メールやLINEからの問い合わせも可能です。何かお困りの場合は、気軽にお問い合わせください。