業務命令に従わない問題社員への対応方法について弁護士が解説

問題社員が業務命令に従わず、どうすればいいかと頭を抱えていませんか。

業務命令を無視する社員と働くことに、限界を迎えている方も少なくないと思います。

今すぐクビにしたいと思うかもしれませんが、安易な解雇は会社に大損害を招きかねません。

こうした悩みを抱えている人に向けて、この記事では業務命令に問題社員への対応方法について解説します。この記事を読めば、どのような手順で手続きを踏めばよいかを理解できます。

記事を参考に、どう問題社員に対応するかを社内で検討してみてください。

業務命令に従わない問題社員とは?

業務命令に従わない問題社員には、主に以下の種類があります。

  • 仕事上の指示に従わない社員
  • 配転命令に従わない社員
  • 健康診断の受診命令に背く社員

その人に合った対応方法を見つけ出すべく、タイプごとの特徴を押さえましょう。

使用者による仕事上の指示に従わない

問題社員の中には、仕事上の業務命令に従わない人も少なからずいます。社員が使用者の指示を無視するようになると、業務全体の進むスピードが遅くなることもあります。社内秩序にも悪影響を与えるため、早いうちに改善しないといけません。

厳重注意処分や懲戒処分を下す際には、なぜ相手が業務命令に従わないのかを確認してみましょう。弁明の機会を与えることで、改善策も見えやすくなります。

配転命令に従わない

会社の規模が大きくなると、定期的に従業員の配置変更が行われます。配置変更の中でも、長い期間にわたって勤務場所や職務内容が変わるものが配転命令です。基本的には社員に対して、専門的なスキルを身に付けさせるといった目的があります。

配転命令は該当する社員にとって負担が大きいゆえ、頑なに拒否する人もいるでしょう。そのため配転命令を下す際には、以下の権利濫用法理に当てはまらないかを確認してみてください。

  • 業務上の必要性がない
  • 不当な動機や目的で行われていないか
  • 一般常識に照らして社員に著しい不利益を与えていないか

このような問題に触れていない場合でも、最初から懲戒処分を下すのは避けたほうが賢明です。なるべく話し合いによる説得を試みましょう。

健康診断の受診命令に従わない

社員の健康を守ることは、会社にとっても欠かせない義務のひとつです。労働安全衛生法第66条にも、健康診断を実施しなければならないと定められています。

もし受診を拒否する社員がいたとしても、全員に健康診断を受けさせなかったら労働基準監督署からの指導が入ります。その後も改善されない場合は、50万円以下の罰金刑に処されることもあるので注意してください。

なお精密検査の受診命令に従わなかったケースでは、戒告処分を有効と認めた判例もあります。相手の声にも耳を貸しつつ、誰もが受診しやすい環境を構築しましょう。

業務命令に従わない労働者への対応方法について

業務命令に従わない社員への対応には、さまざまな方法があります。はじめのうちは軽い処分で済ませ、改善されないのであれば徐々に重い処分を下すのが望ましいでしょう。

口頭の注意および始末書を提出させる

問題がそこまで大きくなく、業務命令違反が初めて見られたような場合は口頭の注意に留めたほうが賢明です。その際には相手を一方的に叱りつけるのではなく、弁明させる機会も与えましょう。指導も、一種のコミュニケーションであるのを念頭に置いてください。

会社に一定の損害を与えたのであれば、始末書を提出させることも検討するとよいでしょう。今後の改善策について、問題社員自身にもじっくりと考えさせる時間を与えられます。

懲戒処分を検討する

問題社員に改善の余地が全く見られない場合は、懲戒処分も検討してみてください。懲戒処分とは、会社が社員に対して下す制裁のことです。

業務命令に従わないケースで懲戒処分するには、以下の要件を満たしているかを事前にチェックしましょう。

  • 業務命令が有効か
  • 社員が業務命令に背いた事実がある
  • 懲戒処分について就業規則で定めている
  • 懲戒処分の内容と手続きが適切か

それぞれの要件を細かく解説します。

業務命令の有効性

懲戒処分が正当と認められるには、業務命令そのものが有効でなければなりません。基本的に業務命令は、労働者と交わした労働契約に加えて就業規則が根拠となります。さらに業務内容が、労働者に著しい不利益を与えないことも要件のひとつです。

例えば相手の私生活を考慮せず、時間外労働や遠方への配置変更を強いるのは基本的に無効です。懲戒処分を下す前に、業務命令が有効か否かを弁護士にも確認してもらうとよいでしょう。

社員が業務命令に背いた事実

使用者からの業務命令に対し、社員が背いている事実を証明できるかも懲戒処分が認められる要件となります。この場合、口頭でのやり取りは証拠が残りづらいので避けたほうが賢明です。

業務命令の内容や根拠が記されている資料を用意し、万が一訴えられたとしても証拠を提示できるようにしましょう。

就業規則による根拠

懲戒処分を下す際には、就業規則に根拠を明記する必要があります。加えて懲戒処分は、就業規則に定められている内容のみが対象となります。業務命令の内容が明記されていなかったら、懲戒処分はできないので注意してください。

なお就業規則で定めたとしても、それが社員に周知されていなかったら有効にはなりません。労働基準法第106条では、周知の方法として以下の3点が規定されています。

  • 事業所の見やすい場所に掲示あるいは備え付ける
  • 従業員に書面で交付する
  • デジタルデータで保存した社員が誰でもアクセスできる状態にする

この3点のうち、いずれかを必ず行いましょう。

懲戒処分の内容と手続き

就業規則で根拠を定めても、業務命令違反の内容と懲戒処分の程度が合わないと無効になる可能性が高まります。どの処分を下すかは、慎重に考えたほうが望ましいでしょう。

ここでは、懲戒処分の内容を軽い処分から順番に表でまとめてみました。

懲戒処分主な内容
戒告口頭による注意
譴責(けんせき)書面による注意
減給賃金を減額する
出勤停止出勤を禁止する(その間は無給)
降格役職を引き下げる
諭旨解雇退職届の提出を命じる
懲戒解雇社員を一方的に解雇する

また懲戒処分は、適正な手続きでなされる必要があります。権利濫用とみなされないためにも、処分を下す前に弁明の機会を相手に与えるようにしましょう。

退職勧奨を行う

懲戒処分を下しても効果が見られないのであれば、退職勧奨も検討してみましょう。退職勧奨は解雇とは異なり、相手が自ら退職することを促す行為です。最終的には問題社員自らが退職の判断をするため、解雇と比べて法的トラブルに発展しにくいメリットがあります。

ただし、退職勧奨には強制力がありません。仮に問題社員が話し合いに応じなければ、会社は引き続き雇用する義務を負います。無理に退職を促してしまうと、退職強要とみなされるので注意してください。

なお退職勧奨によって問題社員が辞めた場合は、自己都合ではなく会社都合退職と判断されます。会社都合退職の場合、助成金の対象から除外されるケースもあります。

業務命令違反による懲戒解雇について

業務命令違反により、会社に多大な損害を与えたときは懲戒解雇を検討することもあるでしょう。懲戒解雇には強制力がある一方で、やり方を間違えると訴えられるリスクも高まります。ここでは、懲戒解雇を実施する際の注意点や諭旨解雇との違いをまとめます。

懲戒解雇の注意点

懲戒解雇には強制的に問題社員を辞めさせられるメリットがありますが、法的リスクも高くなります。仮に裁判沙汰になったとしても、敗訴しないように準備を整えておくことが大切です。

正当な理由が必要

懲戒解雇は、懲戒処分の中でも最も重い方法です。処分を下された社員の生活に多大な影響が及ぶため、法律的にも正当と認められるほどの理由が必要となります。正当な理由として認められる例が以下のとおりです。

  • 犯罪にあたる不正行為
  • 長期にわたる無断欠勤
  • 経歴詐称が見られた
  • 複数にわたり懲戒処分をしたが改善されない

訴訟されても有利に立つには、これらの証拠を形として残さないといけません。弁護士とも相談しつつ、懲戒解雇を下す前に証拠保全を進めておきましょう。

労働基準監督署の認定手続きを経ているか

懲戒解雇は、解雇予告や解雇予告手当の支払いをせずに処分を下せます。ただし当該行為が認められるのは、労働基準監督署より除外認定の申請が受理された場合のみです。申請時には、対象となる社員の名簿や事由が明確に示された書類も添付します。

仮に除外認定がされていなかったら、懲戒解雇でも解雇予告か解雇予告手当の支払いのいずれかを行わないといけません。手続き上に不備がないか、社内で入念に確認してください。

諭旨解雇との違い

先程も表で簡単に説明しましたが、懲戒解雇と諭旨解雇の違いは社員に退職届を提出させるか否かです。定義上は懲戒解雇と区別されますが、適用できるハードルはそこまで変わらないと押さえましょう。合理的な理由があると認められなかったら、諭旨解雇も不当と判断されます。

諭旨解雇は退職勧奨と類似していますが、懲戒処分の一種であり事実上は社員側に拒否権がありません。退職届の提出を拒否されたところで、懲戒解雇に移るのが一般的であるためです。

問題社員対応について当事務所でサポートできること

もし問題社員の対応でお困りの場合は、当事務所にお問い合わせください。当事務所では中小企業経営者に向けて、以下のようなサポートを行っています。 

  • 解雇または退職勧奨に関するアドバイス
  • ハラスメントの訴え
  • 残業代を巡るトラブル

法律が絡む複雑な手続きを、素人だけで行うのは望ましくありません。当事務所では問題社員への対応に悩む依頼者の気持ちに寄り添いつつ、最善の方法を提示するよう取り組んでいます。決して一人で悩まず、プロの弁護士と一緒に問題を解決しましょう。

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