・辞めた従業員から未払残業代があるとして,請求を受けている
・能力不足や,勤務態度不良の問題社員がおり,辞めてもらいたいが,解雇はリスクがあるので困っている
・懲戒処分相当の事案が発生したが,どのような手順で進めたら良いか,慎重に進めたいので,相談に乗って欲しい
・解雇した従業員が,解雇無効であるとして弁護士に依頼したとの連絡を受けたが,どう対応すれば良いか
・上司からセクハラ・パワハラを受けたとの相談があり,対応を検討しなければならない
・モデル就業規則を参考に,就業規則を作成しているが,内容が会社の実態に合っているかわからない
・賃金の減額について,従業員から承諾を得ていたにもかかわらず,後になって無効を主張されている
多くの企業経営者様は,事業を継続・発展させていくためには,従業員の活躍が不可欠であると認識しておられ,であるからこそ,従業員を企業の財産として,大切にしようとされています。確かに,従業員に能力を存分に発揮してもらわなければ,企業の継続的な発展は不可能ですから,従業員を大切にし,その能力が発揮できる環境を整えることは,会社経営の基本であるといえます。
しかし,従業員にもいろいろな個性がありますから,経営者側の期待に応える水準に達していなかったり,時には,採用時の期待を大きく裏切る従業員がでてくることも,また事実です。事業を,継続・発展させていく上で,人材採用は避けて通ることは出来ない以上,どうしてもある程度のリスクは抱えることになるのです。
その際,いったん採用した人材については,中長期のスパンで教育し,成長を見守る必要があることもまた事実です。ですが,時間をかけても,必ずしも期待通りに成長しない場合もありますし,他の従業員に悪影響を与えたり,ひいては,従業員同士のトラブルで,優秀な従業員の方が,逆に退職してしまうことすらあり得ますので,問題従業員を放置することもまた,企業の発展を妨げてしまうのです。このため,いかにして問題従業員を辞めさせるかというのは,重要な経営課題であり,多くの経営者の方が頭を悩ませているところです。
他方で,労働法では,労働者の保護が重視されているため,会社と労働者との間で問題が起こり,争いになると,経営者側が厳しい立場に立たされることが多いのが現状です。従業員に問題があったとしても,不当解雇となるような形で解雇を行えば,解雇無効や,これが認められた場合の未払賃金(バックペイ)の支払等で,多額の経済的・時間的負担を負わなければならなくなります。
このため,問題従業員に対応する際には,労働法制で保護されている従業員に対し,どの程度まで認められるのかを正確に把握しながら対応を行うことがとても重要になってきます。
労働問題については,迅速かつ的確な対応をするため,専門家である弁護士にご相談いただければと思います。
就業規則・労働契約書の整備
労働問題を未然に防止するためには,平常時から,労務管理をしっかり行っておくことが重要です。特に,次項以下でも記載するとおり,解雇や懲戒処分については,理由や内容をあらかじめ就業規則に定めておかなければならないとされており,就業規則がきちんと整備されていないと,いざというときに適切な対応が出来ないこととなります。
このため,就業規則の整備は基本であるといえ,たとえ小さな会社であっても,会社の実態に合った内容の就業規則等の各種規程を整備するは必要なのです。
就業規則に問題がないかチェックをして欲しい企業様,新たに就業規則を作成したい経営者様,労働契約の内容にご不安がある経営者様は,当事務所にご相談いただければと思います。
セクハラ・パワハラ
近年,従業員からの相談で一番多いのが,セクハラ・パワハラ等のハラスメントの問題ではないでしょうか。
会社が,一定程度の規模になると,従業員が多い分,多かれ少なかれ,人間関係に絡んだトラブルが発生するのはやむを得ないでしょう。その中には,軽微なものもある一方で,深刻なもの,ハラスメントと評価できるようなものもあります。
従業員から,ハラスメントについての相談を受けた場合,どのような対応を取る必要があるかについては,ケースバイケースといわざるを得ませんが,まずは,双方当事者や関係者の話を聞くなどして,事実関係の把握に努める必要があるでしょう。
ですが,加害者の方にも言い分があることがほとんどでしょうから,何か事実なのかを把握すること自体とても難しい問題といえるでしょう。
また,事実関係の把握が出来たら,加害者に対する処分を検討し,事実関係に対応した内容の処分を科す必要があります。その際にも,どの程度の処分であれば,無効とされないのかについて慎重に検討する必要があります(※解雇の項目もご参照下さい。)。
さらには,ハラスメントの対応に当たっては,被害者側が二次被害を受けないように,配慮をする必要もあります。
このように,ハラスメントの問題には,経営者が自ら対応するのが難しい場面も多いと思いますので,専門家にご相談をいただければと思います。なお,当事務所においては,男女複数の弁護士が所属しており,セクハラ問題等について,男女ペアで対応することも可能ですので,ご相談いただければと思います。
退職勧奨・解雇
勤務態度が著しく不良であったり,他の従業員と日常的にトラブルを起こす,また,何度注意をしても改善されない等の問題従業員にお悩みの経営者はとても多くいらっしゃいます。そのような従業員には,なんとかして退職してもらいたいと考えるのは,通常のことといえます。
ですが,労働者にとって,職を失うことは生活に直結する重大な問題であるため,先にもご紹介したとおり,労働法は労働者を手厚く保護しており,特に解雇については,容易には認められないこととなっています。
ですがその一方で,会社は,従業員に対して雇用契約上の安全配慮義務を負っているため,上記のような問題従業員を放置しておくことで,他の従業員に被害が発生した場合には,逆に,他の従業員に対する安全配慮義務違反として,責任を問われることにもなりかねません。
セクハラ・パワハラが典型的な事案ですが,上記の通り,他の従業員を守る意味でも,問題従業員に対しては,毅然とした対応を取る必要があります。まずは,地道に注意指導を繰り返すことで改善を促すほか,それでも聞き入れない場合には,戒告や譴責などの軽い懲戒処分を下すことが考えられます。
それで改善されれば大きな問題はありませんが,勤務態度の不良や他の従業員との衝突は,本人の個性と関連していることもあるため,上記のように注意を促したとしても,改善されない場合も多々あります。
そればかりではなく,近年,業務上の指導をした上司に対し,「今のはパワハワですよ?」「労基署に訴えますよ?」等と,パワハラを楯に上司の注意指導に従わない場合すらあります。実際のところ,業務上必要かつ相当な範囲内で行われる適正な指導については,パワハラには該当しないのですが,そのような対応で,注意指導に従わないばかりか,逆に攻撃してくるような従業員については,改善の余地がないと判断せざるを得ないでしょう。
そうすると,当該従業員については,退職してもらう方向で検討せざるを得ず,当事務所でも,問題従業員を退職させたいが,どのように進めれば違法にならないのか,というご相談をとても多く頂いているところです。
以下で紹介するとおり,解雇については,かなり厳しい要件を満たす必要がありますので,まずは,退職勧奨という手段で,問題従業員に,任意の退職を促すという方法をとるのが良いでしょう。
退職勧奨
退職勧奨とは,会社のほうから,従業員に対して,任意の辞職を促すことをいいます。あくまで,任意に従業員の退職を促すに過ぎず,何らの強制力や法的効果を有するものでもないため,これを行うこと自体は,会社側の自由です。
退職勧奨による退職は,従業員自らの意思表示によるもの,あるいは,会社と従業員の合意によるものであるため,事後的な紛争になりにくいというメリットがあります。
また,話し合いによる解決手段であるということで,退職に際し,様々な取り決めをすることも可能です。このため,適切な引き継ぎを実施することも可能ですし,貸与品を返還させることも出来るなど,スムーズな退職となる可能性が高いといえるでしょう。
以上は,任意による退職であることからくるメリットですが,逆に,任意であるということはデメリットでもあります。
すなわち,従業員が,退職を拒否する場合に,強制的に退職させることは出来ません。
強制と評価されるような違法な退職勧奨であれば,従業員が退職したとしても,その意思表示には瑕疵があるとして,強迫による取消や,錯誤無効の主張をされる可能性があります。そうすると,退職の意思表示はなかったことになり,従業員としての地位は継続されているとして,退職後の賃金を支払わなければならなくなる可能性もあります。さらに,違法な退職勧奨を受けたことで精神的苦痛を受けた等として,慰謝料請求をされることもあり得るでしょう。
このため,違法な退職勧奨とならないよう,あくまでも,従業員に納得してもらった上で退職の意思表示をしてもらうことが大切です。
そのための,流れや注意事項について,以下で説明します。
退職勧奨を行うからには,それなりの理由があるはずですから,これまでの注意指導の記録や,他の従業員から聴取した情報のメモ等,説明資料を事前に準備しておくことが必要です。これに基づいて,注意指導を行うというところから話を始めるのが一般的でしょう。
また,退職勧奨はあくまでも円満な退職をしてもらうことが目的ですから,従業員の自尊心を必要以上に傷つけることは得策ではないので,他の従業員からは見えない場所で実施するようにしましょう。
また,いったんは納得して退職したにもかかわらず,後になって退職勧奨が強制的であった等と主張される場合もあり得ますので,面談の様子は録音をしておく必要があるでしょう。
他方で,退職勧奨の場面では,従業員側からも録音をされている可能性が十分にあります。このため,従業員が反抗的な態度をとったとしても,売り言葉に買い言葉等にならないよう,落ち着いて対応をすることが重要です。そのために,複数人で対応することも有効といえるでしょう。
従業員のほうが,「自分には,今の職場が合っていない。」,「もっと自分に合った職場があるはずだ。」などと納得してくれ,退職勧奨に応じてくれる場合には,退職届を提出してもらいましょう。
また,退職日や退職に伴う条件を取り決めるための退職合意書も作成するようにしましょう。それらの作成については,退職勧奨の日であっても,後日であっても良いですが,任意の退職であるということを疑わせる事情がないよう注意する必要があります。
逆に退職に応じない場合には,退職金の上乗せや解決金の支払いなど,一定のメリットを示した上で,任意の退職を促すという方法も考えられます。
そのような話し合いにもかかわらず,退職に応じない,さらには,反抗的な態度を続ける従業員については,解雇を視野に入れることになります。
解雇
労働契約法第16条には,「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と規定されています。これは,一般に,「解雇権濫用法理」といわれるものであり,裁判所は,「解雇は原則として無効」と判断するいっても過言ではないほど,この規程を厳しく運用しています。
それでは,労働契約法16条に規定される「合理性」と「相当性」がどのような場合に認められるのでしょうか。
「合理性」について
解雇の合理的な理由としては,労務提供の不能,労働能力・職業適性の低下・喪失,勤務成績・勤務態度の不良,労働義務違反,業務命令違反,服務規律違反等が考えられます。
このように,解雇の合理性については,比較的一般的な感覚に近いといえるかも知れません。
「相当性」について
上記のような合理的な理由あったとしても,当該理由が,解雇をしなければならない程度にまで達していたかの判断が相当性の判断です。
この相当性は,労働者側のあらゆる事情を総合的に考慮して判断されます。
その際,解雇はあくまでも最後の手段と位置づけられていることから,例えば使用者が成績不振や能力不足の従業員を解雇するためには,いきなりではなく,その前に,注意,指導,教育訓練,配転などの他のとりうる手段を尽くすことが求められており,そうでないと解雇は認められないということになっています。
この,相当性をクリアするのがかなり難しくなっており,よほどのことがない限り解雇は出来ないという運用となっているのです。
なお,解雇理由は必ず就業規則に記載しなければならず(労働基準法89条3号),労働者が解雇理由の証明書を求めた場合には,使用者はこれを交付しなければなりません(労働基準法22条)。後に裁判になった場合には,使用者は証明書に記入した以外の解雇理由を持ち出すことは出来ないと考えられているため,解雇理由証明書の記載にも注意が必要です。
また,その他の懲戒処分を行うにも,あらかじめ就業規則に懲戒の種類及び事由を定めておくことが必要であることにも注意が必要です。
このように,就業規則の整備は大前提となっているのです。
以上のとおり,問題従業員とはいっても,退職をさせること簡単ではありませんが,放置するわけにもいきません。
問題従業員への対応にお悩みの方,少しでもスムーズに退職させたいとお考えの経営者の方は,当事務所にご相談いただければと思います。
未払残業代について
退職した従業員から突然未払残業代を請求され,どのように対応すれば良いか分からないとして,相談に来られる経営者の方が多くおられます。
なかには,円満退社をしたはずにもかかわらず,突然請求され,とても驚いたというような話も珍しいことではありません。
残業代は,労働者が,所定労働時間を超えて労働した場合に発生し,それが労働基準法で定められた労働時間(原則として1日8時間,1週間に40時間)を超えるものであった場合には,さらに25%の割増賃金を支払わなければなりません。また,休日労働や深夜労働をさせた場合は,それぞれそれに対応した割増賃金を支払わなければなりません。
また,残業代請求の時効が,2年から3年に伸長されたことからすれば,最大3年分の残業代を請求されるリスクがありますので,その額は数百万円単位に及ぶことも少なくなくありません。そうすると,中小企業にとっては経営そのものにも影響を与えうる深刻な問題になりかねません。
それでは,未払残業代を請求された場合,どのようにすれば良いでしょうか?
①管理監督者に該当していないか
「監督もしくは管理の地位にあるもの」(管理監督者)に対しては,残業代を支払う必要がありません。
このため,まずは,管理監督者に該当する者からの請求ではないかということを確認しましょう。
管理監督者とは,労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者を指します。その際,役職名ではなく,職務内容,責任と権限,勤務態様等の実態によって判断されることに注意が必要です。
②労働時間のチェック
労働者の主張する労働時間が正しいのかをしっかりと検討しましょう。
タイムカード等の出退勤を裏付ける資料があれば,それを確認・集計することになります。
ただし,労働時間の裏付資料があったとしても,労働者が,その全ての時間に会社の業務を行っていたかどうかは分かりません。すなわち,労働者が主張する労働時間において,業務外の行為(例:頻繁にたばこを吸いに行く,ネットサーフィン,おやつ休憩)をしたのであれば,その時間は労働時間から外すべきですので,その点も併せて確認しましょう。
③時効のチェック
先にも述べたとおり,未払残業代は3年で時効により消滅します。このため,労働者が請求する残業代のうち,時効により消滅している部分がないのかを確認しましょう。
お早めに弁護士にご相談を
未払残業代に対しては,高額な遅延損害金が定められていることに加え,付加金という制裁金の支払が命じられることがあり,これにより,請求額の2倍の金額の支払いを命じられる可能性があります。このため,残業代の請求を受けた際には,速やかな対応が求められます。
労働者から請求を受けた後,短時間に,①~③の調査を行ったうえで,回答のために冷静な判断を行うことは容易ではありません。
また,未払残業代を請求されるということは,会社の労務管理に問題があるケースもあることから,再び同じような紛争が生じることのないように,労働契約書や就業規則を根本的に見直す必要がある場合もあります。
すでに発生した問題に対して,速やかに適切な対応をするのと並行して,将来の紛争防止についても,検討していくことが可能ですので,未払残業代を請求されてお困りの経営者の方は,当事務所にご相談いただければと思います。